第36章 疑わしい行程

林田遥香は部屋の中で、怒りにまかせてベッドの枕を掴み、ドアのほうへ投げつけた。

「卑怯者! ちょっとした変化があっただけで投げ出すなんて……役立たず! だから浅倉家の血じゃないんだよ!」

遥香は汚い言葉で罵り続ける。もっとも、その声を聞く者は誰もいなかった。

浅倉友菜がいなくなったことなど、浅倉家にとっては海に落ちた砂粒みたいなものだ。音もなく、跡も残らない。

春園の最上階。星野彩実は手すり越しに下を見下ろした。友菜の荷物は驚くほど少なく、スーツケースが二つだけ。

その光景に、彩実の胸にもわずかな感慨が差す。

名門のお嬢様が、一夜でただの一般人に――そんなこと、誰が想像しただろう。...

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