第47章 アーズベルク院士

だが浅倉友紀子がふいに振り向いた、その瞬間だった。林田夏美はすぐさま従順そうな笑みを作る。

けれど、まだ包帯も巻けていない手首の傷はじわじわと血を滲ませていた。

暗赤色の雫が白い肌を伝い、手の甲へ――照明の下でやけに目立つ。その一滴を、友紀子は見逃さなかった。

「……それ、どうしたの?」

浅倉友紀子はすぐ立ち上がり、足早に夏美の前へ行くと手首を掴んで確かめる。

「こんなに傷つけて……家庭医は? 早く呼んで!」

林田夏美は落ち着いたまま、使用人から包帯を受け取ると、手首に適当にぐるりと巻いた。

口調はあくまで軽い。

「大丈夫だよ、姉ちゃん。ちょっと擦っただけ」

「ちょっとで...

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