第62章 ダトゥ府の奇妙さ

ミアは言いよどんだかと思うと、ふいに吹き出した。

「でもさ、ほんとのこと言うね。彩実、役者にならなかったの、もったいなさすぎ」

「この前の花村家のパーティーでさ。私のこと、初対面みたいに扱ったじゃん。目ぇ冷たすぎて、氷の欠片かと思った。マジで忘れられたのかって焦ったし」

星野彩実は、その言い方に口元だけわずかに緩めた。返事はしない。けれど手は止めず、黒銀の細工が施された小箱を丁寧に拭き上げていく。

箱は開けない。中に収められているのは、ジェニー先生の十二振りの儀式用ナイフだ。

月光が床まで届く大きな窓から差し込み、黒銀の蓋の上で細かな光がきらり、きらりと弾けた。

彩実が黙ったままな...

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