第3章

元カノの突然の登場が、私の淡い夢を打ち砕いた

鏡の前で20分も立ち尽くし、三度も服を着替えて、ようやくネイビーのビジネススーツに決めた。露出は控えめだけど退屈じゃない、スカート丈はちょうど膝が隠れるくらい――プロフェッショナルでありながら、可愛さも残したデザイン。

マスカラを二度塗りして、薄いピンクのリップグロスを引いてから、鏡の中の自分に向かって深呼吸する。

今日は日曜日だから、オフィスはきっと私たち以外誰もいない。そう考えただけで、心臓がドキドキと音を立てた。

『もしかしたら今日、明人さんがこのプロジェクトに私を選んだ理由を教えてくれるかもしれない。仕事以外の話も、ちゃんとしてくれるかもしれない。もしかしたら……』

「美咲、落ち着いて」私は自分の頬を軽く叩いて言い聞かせた。

8時50分、エレベーターを降りる。30階のフロア全体がしんと静まり返っていて、大理石の床に私のヒールの音だけが響いていた。明人さんのオフィスのドアは閉まっていたけれど、隙間から光が漏れているのが見えた。

もう一度髪を整え、彼のオフィスのドアの前で立ち止まる。ドアを叩こうとした手は、空中で固まってしまった――急に、ものすごく緊張してきた。昨日の夜は、今日のことを考えてほとんど眠れなかったのだ。

私のノックの音が、誰もいない廊下にこだました。

「どうぞ」明人さんの声がした。

私は仕事用のとびきりの笑顔を浮かべてドアを押し開け――そして、凍りついた。

ソファに、一人の女性が座っていた。

ただの女性じゃない。優雅に組まれた長い脚を持つ、息をのむほどの美女。履いている赤いヒールは、少なくとも10センチはありそうだった。

彼女は私に気づくと立ち上がり、完璧な笑みを唇に浮かべた。

「あなたがあきの新しいアシスタントの方?」その声は、上品で洗練された、絹のように滑らかな響きだった。「私は藤崎美香よ」

『あき?』

心臓が胃のあたりまでずしりと落ちていく。彼女、彼のことを「あき」って呼んだ?

「あ……はい、私が倉本美咲と申します」私はなんとか笑顔を作り、明人さんを探してあたりを見回した。

彼は完璧なスーツ姿でデスクの後ろに座り、相変わらず氷のように冷たい表情をしていた。私を見ても、ただ頷いただけ。立ち上がりすらしなかった。

「昨日のファイルを机に置いておいてくれ」まるで私がただの配達員か何かであるかのように、純粋なビジネスモードで彼は言った。

手に持っていたフォルダーが、急に鉛のように重く感じられた。私が思い描いていたものとは、何もかもが違った。今日は特別な日になると思っていたのに。私たち二人きりで。またコーヒーを淹れてくれるかもしれないとか、仕事以外の話ができるかもしれないとか……。

「あき」不意に美香さんが猫なで声で言った。

彼女はまるでランウェイを歩くかのように、明人さんのデスクへと滑るように歩み寄る。その完璧な曲線を描く歩き姿を見ていると、自分がひどくちっぽけな存在に思えた。

美香さんは彼のそばまで行くと、何気ない仕草でその肩に手を置いた。

「すごく会いたかったわ」彼女は身をかがめ、唇が彼の耳に触れんばかりの距離で囁いた。「私、戻ってきたの。もう一度、やり直せないかしら?」

私は息もできないような気持ちで、そこに立ち尽くしていた。戻ってきた? やり直す?

じゃあ、彼女は彼の元カノ? それとも、今カノ?

私は明人さんをじっと見つめた。彼女を突き放すか、せめて気まずそうな顔をしてくれることを期待して。でも、彼はそうしなかった。まるで美香さんがそこにいないかのように、ただ書類に目を落とし続けている。

「仕事中だ」ようやく明人さんは、完全に落ち着き払った声で言った。「美咲、ファイルは置いていっていい」

それだけ? そんなふうに、私を追い払うだけ?

私はロボットのように彼のデスクへ歩み寄り、フォルダーを置いた。手が少し震えていて、二人に気づかれませんようにと祈った。

「あなたのアシスタント、少し落ち着きがないみたいね」美香さんは体を起こし、面白がるような笑みを浮かべて私を見た。「ちょっと緊張しすぎじゃない?」

その言葉は、平手打ちのように私の心を打った。

顔がカッと赤くなるのがわかった。緊張? ええ、そうよ。あなたみたいな人には会ったことがない。まるでファッション雑誌から抜け出してきたみたいに完璧で、声のトーンひとつで自分が他の誰よりも優れていると叫んでいるような人には。

私、なんて馬鹿だったんだろう。

「美咲さん?」明人さんの声が、私の思考を遮った。

顔を上げると、彼が私を見つめていた。あの青い瞳は相変わらず綺麗だったけれど、今は氷のように冷たく感じられた。

「他に何か?」と彼は尋ねた。

『他に何か?』

美香さんが誰なのか、昨日のメールはどういう意味だったのか、今までのあのささやかな甘い瞬間は何だったのか、全部聞きたかった。でも、何も言えなかった。

「いえ、篠原さん」私は自分が囁くのを聞いた。「失礼いたしました」

私は背を向け、入ってきた時よりもずっと速い足取りでドアに向かった。背後で、美香さんの笑い声が聞こえた。

「可愛い子ね」彼女は言った。「あなたに気があるんじゃない?」

私は一瞬立ち止まり、明人さんが何か言ってくれるのを待った。でも、聞こえてきたのはタイピングの音だけだった。

その沈黙は、彼女が言ったどんな言葉よりも深く私を傷つけた。

私はまっすぐ化粧室に駆け込んだ。中に入って誰もいないことを確かめた途端、ついに私は崩れ落ちた。

鏡の中の女の子は、ひどい有様だった。丁寧に仕上げたはずのメイクは崩れ、顔は青白く、目は赤く充血している。悪夢から覚めようと、冷たい水を顔にかけた。

彼には元カノがいた――それも、とんでもないスーパーモデルみたいな元カノが。それに比べて私は何? 大学を出たばかりで、家賃を払うのがやっとの、ただの一般社員。

どうして、こんなに馬鹿だったんだろう。

スマホが震えた。美玲からのメッセージだ。「今日どう? 何か進展あった?」

私は画面を見つめたまま、何と返せばいいのかわからなかった。たった今、現実を突きつけられたって言えばいい? 上司には完璧な元カノがいて、私はただの惨めな勘違い女だったって?

やがて私は打ち込んだ。「上司に元カノがいた。しかも、もうすぐヨリを戻しそう。完全に私の思い込みだったみたい」

スマホをハンドバッグに押し込み、深呼吸を一つ。

『しっかりしなさい、美咲。早めに気づけたのは良かったじゃない。少なくとも深みにはまらずに済んだんだから』

私はメイクを直し、鏡に向かって笑顔を作る練習をした。

化粧室を出る時、私は自分に言い聞かせた。今しがた起こったことは、すべて忘れよう、と。

私は明人さんのアシスタント。それ以上でも、それ以下でもない。

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