第二十章

張り詰めていた糸が切れたように全身の力が抜けると、綾瀬茉莉は自分が霧生澪の袖口を強く握りしめたままであることに気づき、慌てて手を離した。

指先には、高級なスーツ生地の感触がまだ微かに残っている。

「申し訳ありません……」

彼女は自分の手で皺を作ってしまった袖口を見つめ、消え入りそうな声で詫びた。

霧生澪は無造作に視線を落とし、その皺を一瞥すると、不意に手を伸ばしてきた。

綾瀬茉莉はビクリと肩を震わせ、反射的に目を閉じる。

心臓が早鐘を打つ。しかし、予想していた痛みや衝撃は訪れず、代わりに彼の体温が残るジャケットが、ふわりと彼女の華奢な肩にかけられた。

「乗れ」

霧...

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