第五十二章

霧生澪はドアの前に立ち尽くしていた。廊下の薄暗い照明を背にしているせいで、その表情ははっきりと読み取れない。

しばしの沈黙の後、彼は短く告げた。

「戸締まりを」

それだけ言い残すと、その長身は階段の踊り場へと消えていった。

綾瀬茉莉はようやく、泥のような疲労感と共にベッドへ這い上がった。

彼女は霧生澪のスーツの上着を椅子の背に丁寧に掛ける。ジャケットに残る彼の匂いに、わずかな安堵を覚えた。だが、目を閉じれば、悪夢は約束通りにやってきた。

夢の中で、あの男の獰猛な顔が迫ってくる。遠くでは綾瀬空が冷笑を浮かべ、霧生澪は背を向けて遠ざかっていく。いくら叫んでも、彼は決して振り...

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