第五十六章

「医者が、今日は安静にするようにと言っていた」

霧生澪は腕時計に目を落とし、淡々と告げた。

「一日の休暇を与える」

綾瀬茉莉は拒まなかった。霧生澪が決めたことに、異を唱えられる人間などいないと知っているからだ。

「エレベーターの事故原因が判明した。人為的なものではない。電力システムの不具合だ」

その言葉を聞き、綾瀬茉莉は安堵の息を漏らした。エレベーターに対する恐怖心が、幾分か薄らいだ気がした。

「私はこれで戻る」

霧生澪が立ち上がる。会社に戻るつもりなのだろう。

「霧生社長」

綾瀬茉莉は慌てて彼を呼び止めた。

「昨夜は……ありがとうございました」

霧生澪の背...

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