第六十四章

鼻をつく消毒液の臭いに、綾瀬茉莉はゆっくりと目を開けた。視界いっぱいに、刺すような白が広がる。

「目が覚めたか?」

低い声が横から聞こえ、綾瀬茉莉は首を巡らせた。

ベッドの脇の椅子に霧生澪が腰掛け、じっと彼女を見下ろしている。

「私……」

口を開こうとしたが、喉が紙やすりで擦ったように張り付いて声が出ない。

霧生澪が温かい水の入ったコップを差し出した。綾瀬茉莉はそれを受け取ろうとしたが、指先が彼の手に触れた瞬間、感電したかのように手を引っ込めてしまった。

コップが傾きかけるが、男の大きな手がそれをふわりと受け止める。

「気をつけろ」

平坦な声だが、綾瀬茉莉の耳朶...

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