第六十九章

雨の雫が窓ガラスを蛇行して伝い落ち、窓枠に小さな水溜まりを作っていた。

綾瀬茉莉はソファの隅に体を丸め、膝の上にノートパソコンを置いている。

画面に映し出されているのは、霧生グループの社内システムだ。停職処分中とはいえ、彼女のアカウントにはまだ一部のアクセス権限が残されていた。

マンションの中は静まり返り、キーボードを叩く乾いた音と、窓外の降りしきる雨音だけが響いている。

ローテーブルにはすっかり冷めきったコーヒーと、数枚のプリントアウトされた資料が散乱していた。

綾瀬茉莉は酷使して痛む目をこすり、頬に落ちた髪を一房、耳にかけた。

不意に、スマートフォンが震えた。

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