第七十章

柊紗菜は十センチものピンヒールでよろめきながら近づいてきた。濃厚な香水の香りに、酒の臭気が混じり合って押し寄せる。

綾瀬茉莉は反射的に半歩下がった。視線が、彼女の首筋に残る生々しいキスマークと、手首の青あざを捉える。

「私がこんなになって、嬉しいでしょ?」

柊紗菜の声は耳障りなほど甲高い。毒々しい赤のネイルが施された指先が、綾瀬茉莉の顔を突き刺さんばかりに迫る。

「全部あんたのせいよ! あんたさえいなければ、霧生澪がうちの家を根絶やしにするような真似、するはずなかったのに!」

綾瀬茉莉の瞳孔がわずかに収縮した。

「どういう意味?」

「とぼけないで!」

柊紗菜は突然襟元を乱暴に...

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