第七十六章

霧生グループ本社ビル最上階、社長室。

巨大なフランス窓の向こうには、宝石箱をひっくり返したような煌びやかな都市の夜景が広がっている。

霧生澪は海外とのビデオ会議を終えたばかりだった。その眉宇には、誰にも気づかれないほどの微かな疲労の色が滲んでいる。

彼は眉間を軽く揉みほぐすと、プライベート用のスマートフォンを手に取った。画面が点灯し、綾瀬茉莉からのメッセージが最上部に静かに表示されている。

冷淡な瞳の奥に、微かなさざ波が立った。彼は指先を動かし、返信を送信した。

「澪、こんな時間までお仕事? 体には気をつけなきゃ駄目よ」

甘ったるく猫なで声が、濃厚な香水の匂いと共に漂っ...

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