第173章 病気は早めに治せ

 彼女はいま、とても落ち着いていた。

 別れたばかりの頃みたいに、ふとした瞬間に彼を思い出して、いちいち心をかき乱されることもない。

 時間は、よく効く薬だ。

 どんなに深い傷だって、いつか塞がっていく。

 桜井雨音はもう、とっくに手放していた。

 あの男に付けられた痛みさえ、日々の流れの中で薄まり、やがて思い出せなくなるくらいに。

「何か用?」と雨音は訊いた

「場所、変えて話せないか」

「話すことなんて、別にないと思う」

「雨音……」

「その呼び方、やめて」

 神崎康臣は、目に見えて気勢を削がれた。

 それでも諦めきれないのか、ちらりと篠原温人を窺う。普通なら、この...

ログインして続きを読む