第32章 彼への愛も一つ一つ捨て去る

 部屋のドアを押し開けるなり、神崎康臣は正気を失ったみたいにクローゼットを引っかき回した。続いて桜井雨音の専用ドレッシングルームへ駆け込み、並ぶハイブランドのバッグや服、彼が贈った腕時計やアクセサリーを確かめる。

 どれも――きっちりと、元の場所に収まっていた。

 一つも減っていない。

 視線が、チェリーのブレスレットに吸い寄せられた瞬間、呼吸が浅く速くなる。瞳の奥に、凶気がにじんだ。

 忘れるはずがない。付き合って三年目、海外で買って帰った、彼女の誕生日プレゼントだ。

 さくらんぼは英語でcherry。発音がcherishに似ているから――「大切にする」という意味を重ねた。

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