第33章 私に寝られたことがないわけじゃないだろう

 道中、二人が言葉を交わしたのは最初の数言だけで、あとはそれぞれ沈黙を守った。

 篠原温人が今日出しているのは、いつもの足車だった。彼女の気分が良くないことを察したのか、スピードは飛ばさず、かといって遅すぎもしない。一定の速さを、丁寧に保っている。

 高級住宅街に入ると、ゲートの警備員が桜井雨音の姿に気づき、声をかけてきた。

「桜井さん、お久しぶりですね。出張か何かでした?」

 桜井雨音は淡く笑っただけで、答えなかった。

 篠原温人は横顔を一瞥し、深追いはしない。

 沈黙のまま邸宅の前に着き、車が止まる。

「悪いけど、少し待ってて。書類……じゃない、本。運び出したらすぐ出てくる...

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