第57章 男二人の芝居

「おい、顔色が悪いぞ。病院に運んだほうがいいんじゃないか」

 ずっと影が薄かったコーチが、急に口を挟んだ。

 桜井雨音はそこでようやく、自分の周りに人が集まっていることに気づく。皆、ほっと息をついたような顔をしている。

 篠原美羽も今さら我に返ったように言った。

「さっき救急に連絡した。ほかにどこか痛い? 気分は?」

「手が……たぶん、ケガしたかも」

 雨音が指先を動かそうとする。さっきまで水の中では動かせたのに、今はもう、まるで言うことをきかない。

「どうして急に沈んだの? 何があったのよ」

 桜井雨音は一瞬だけ黙ってから、ぽつりと言った。

「……酸素ボンベが、おかしかっ...

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