第58章 君がいるから、手伝うんだ

 彼女は周囲を見回した。光のない部屋には、死んだみたいな静けさが沈んでいる。

 よかった……ただの夢……

 なのに、大きく、大きく息を吸ってしまう。まるで海から引き揚げられたばかりみたいに、必死で新鮮な空気を求めて。

「チリン――」

 夜風がすっと通り抜け、玄関に吊るした風鈴が澄んだ音を鳴らした。桜井雨音が外を見やると、静かな夜に波の音だけがはっきりと届く。

 悪夢の余韻が、いつまでも胸の奥に張りついたままだ。横になっても眠れず、彼女は上着を羽織って外へ出た。

 深夜。やわらかな海風は、冷えた空気の中でどこか角を持つ。

 桜井雨音はショールを寄せ、砂に足を取られながらビーチを歩...

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