第66章 人の噂は恐ろしい

 朝八時。桜木市最大の青果市場は、朝っぱらから人でごった返していた。威勢のいい呼び声、氷の上で跳ねる魚、レジ袋の擦れる音。熱気だけが、冬の冷たさを追い払っている。

「桜井先生、また魚ですか?」

「うん。スズキ、ある?」

「ありますあります! 先生のぶん、取っといたよ」

 中年の女将はそう言うと、手際よく秤にのせ、鱗を落とし、内臓を抜いていく。包丁の音が小気味いい。

「はい、できたよ」

 桜井晋太郎はスマホを取り出した。

「いくら?」

「やだ、いいですよ。先生には、うちの渡辺飛鳥がいつもお世話になってて……」

「それは別。商売でしょ。受け取って」

 言い切って、彼はQR決済...

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