第72章 篠原教授、明けましておめでとうございます

 桜井雨音は唇の端を淡く上げた。

「大丈夫。気にしなくていいよ」

 そうは言っても、空気はやっぱり沈黙に落ちる。

 不意に、篠原美羽の向こうの物音がばたばたと騒がしくなった。

「雨音、ごめん、もう切るね。家の食事会始まるの。ママが私のこと探し回っててさ」

「うん、わかった」

 通話を切ってスマホを置こうとした、その瞬間。立て続けにLINEの通知が跳ねた。

 相手は柊時宗。

 国をまたぐ訴訟の書類、受理の控え。現在の進捗が簡単にまとめられていて、あとは本人の署名が必要な書面がいくつか添付されている。

 国際案件は通常より手続きが煩雑で、時間もかかる。ここまで早く動いているのは...

ログインして続きを読む