第3章

午前九時、きっかり。私は加藤先生に紹介された不正調査会計士、吉川潤と向かい合っていた。

「天野さん」吉川は、細いメタルフレームの眼鏡を押し上げ、大型モニターに映し出されたスプレッドシートを指し示しながら口を開いた。「これは単なる不倫の慰謝料請求では済みません。あなたの個人資産に対する、計画的な財産簒奪です」

画面には、取引履歴が滝のように流れていく。その一行一行が、デジタルの血で記された裏切りの証左だった。

「被害総額は、いくらになりますか」と私は静かに尋ねた。

「現時点で、約四千万円。幸い、すべての取引が追跡可能で、領収書のデータも完全に保全できています」キーボードを叩く軽快な音とともに、天野誠也の金融犯罪が、画面上で鮮烈な赤色に染め上げられていく。「彼はこの八ヶ月間、あなたの個人口座を、まるで自分のATMであるかのように利用していたのです」

隣で聞いていた加藤先生が、鋭い視線のまま身を乗り出した。

「立派な犯罪です。経済的にも、そして刑事的にも、彼を社会的に抹殺できます」

私は、画面に並ぶ裏切りの数字を、ただじっと見つめていた。

「やりなさい」私は言った。「清水家の人間から奪うことの対価を、骨の髄まで思い知らせてやりましょう」

午後一時。私は、まったく種類の異なる戦場にいた。

西京学園のカウンセラー、森田先生のオフィスは、加藤先生のそれとはまるで別世界だった。壁一面に子供たちの色彩豊かなアート作品が飾られ、息子の小さな世界が足元から崩れ落ちているというのに、学校という場所は、何事もなかったかのように穏やかな喧騒に満ちている。

「お母さん、雅樹くんの絵ですが、非常に気がかりな点があります」森田先生は、机の上に数枚の画用紙を広げた。「このレベルのトラウマは、継続的な家庭内暴力の存在を示唆しているケースが多いのです」

息子の描いた絵を見つめていると、息が詰まった。

家族の肖像画。そこに描かれた天野誠也は、血走った目をした黒い怪物のようにそびえ立ち、その隣に立つ私は、赤い痣のような点々で覆われた、か細い棒人間でしかなかった。息子が確かに目撃し、しかしその意味をまだ完全には理解できていない、生々しい傷跡だ。

「いつから、そういった兆候が見られたのでしょうか」と私は尋ねた。

「悪夢を見るようになったのは三ヶ月ほど前からですが、攻撃的な行動が目立ち始めたのは、今週に入ってからです」

先生は、別の絵を取り出した。私たちの家が描かれている。だが、その頭上にはどす黒い嵐雲が渦巻き、窓ガラスには無数のひびが入っていた。

「夜もよく眠れていないようです。些細な物音にもひどく怯えますし、そして昨日は……」

「昨日、何があったのですか」

「お母さんのご病気のことをからかったクラスメイトを、突き飛ばしてしまったんです。彼は、ここでもたった一人で、お母さんを守ろうとしているんですよ」

息子の痛みの重みが、冷たい石のように胸にのしかかった。私が弁護士と復讐の計画を練っている間、私の幼い息子は、自分では到底理解できない残酷さから私を守るため、たった一人で戦っていたのだ。

午後七時半。私が蒔いた種が、最初の果実をもたらそうとしていた。

私は寝室のベッドに腰掛け、タブレットで個人資産の口座明細を開いたまま、天野誠也が罠にかかるのを静かに待っていた。

竹内が仕掛けた隠しカメラが、すべてを鮮明な映像で捉えている。

案の定、誠也がネクタイを乱暴に緩めながら部屋に入ってきた。

「てめえ、何してやがる!」その声には、彼の支配が揺らぎ始めたことを示す、聞き慣れた苛立ちが滲んでいる。

「口座の整理をしているのよ、あなた。その……逝く前に、全部きちんとしておこうと思って」私は自分の胸のあたりを曖昧に指し示し、余命いくばくもない妻の役を演じてみせる。

画面に表示された高級宝飾店の高額な請求額を目にした瞬間、彼の顔が怒りで真っ赤に染まった。

「このクソ女が! よくも俺の口座を調べやがったな! あれは俺の金だ!」

「それは私の家の資産よ、誠也。あなたはそれを、あなたの売女につぎ込んだの!」

次の瞬間、誠也が獣のように飛びかかってきた。憎しみを込めた、しかし慣れた手つきで、彼の手が私の喉を掴む。

「どう使おうが俺の勝手だ! どうせお前はもうすぐ死ぬんだからな!」

その時、ドアが開き、雅樹が立っていた。

「お父さん、やめて! お母さんをいじめるな! やめろ!」

十二歳の息子は、胸を張り裂けんばかりの怒りを込めて叫びながら、通学鞄を固く握りしめたまま父親に飛びかかった。

「お母さんをいじめないで!」

誠也は、まるで蝿でも払うかのように、雅樹を乱暴に突き飛ばした。

「部屋に戻ってろ、クソガキ! これは大人の問題だ!」

「雅樹、お願い、二階へ行って!」喉を締め付けられ、息が苦しい中でも、私は必死に声を絞り出した。「お母さんは、大丈夫だから」

けれど、それが嘘であることは、そこにいる誰もがわかっていた。

午後九時。私は雅樹のベッドに腰掛け、私を庇ってドア枠にぶつけた息子の腕の擦り傷に、そっと消毒液を塗っていた。

この子の未来のために私が抱いていた輝かしい夢のすべてが、今やトラウマという暗い影に覆われようとしていた。

「お母さん、本当に死んじゃうの……?」雅樹が囁いた。「お父さんが言ってるの、聞いちゃったんだ……」

「お母さんはね、雅樹と一緒にいるために、すごく頑張って戦うから。すごく、すごく頑張るから」

私の父によく似た雅樹の瞳が、真実を求めて私の顔をじっと見つめる。

「どうして、お父さんはお母さんをいじめるの? 僕、わかんないよ」

「大人もね、時々、すごく悪い選択をしちゃうことがあるの。でも、約束するわ。これからは、必ず変わるから」

「お父さんを、どこか遠くに行かせられないの? もう、お母さんがいじめられるの、見たくないよ」

私は息子を強く、強く抱きしめた。子供らしい無邪気さと高級なシャンプーの香りが混じった、慣れ親しんだ匂いを胸いっぱいに吸い込む。

「お母さんが今、そのために頑張ってるところよ。……守ってくれて、ありがとう。あなたは、本当に勇敢だったわ」

「勇敢じゃないよ」小さな肩が震えた。「僕、ずっと怖いんだ」

その言葉は、私の心臓を冷たい手で掴むかのようだった。

翌日の午後三時、私はショッピングモールで、周到に計画された「偶然の遭遇」を演出した。

長橋遥は、三十万円の値札がついたジャケットを試着していた。私のカード明細によれば、つい今朝、誠也が購入したばかりのものだ。

私を見つけると、彼女の顔が歪んだ喜びに輝いた。

「あらまあ、奈々未じゃない! ずいぶん、ひどい顔ね。癌はあなたには似合わないみたい」

ポケットのスマートフォンでボイスメモアプリを起動させながら、私は静かに微笑んだ。

「遥。誠也はずいぶん気前よく……あなたに『愛情』を注いでくれているようね」

「彼は何にでも気前がいいのよ。特に、本物の女と一緒にいる時はね」

「本物の女? 人の夫と寝る女のことを、今はそう呼ぶのかしら?」

遥の笑い声は、ガラスが砕けるように鋭かった。

「夫に、ちゃんと触れたいと思ってもらえる女のことよ。最後に誠也があなたに触れたのは、一体いつだったかしら?」

「ロマンチックですこと。私の葬儀の準備をしながら、あなたとの結婚式の計画を立てているなんて」

彼女の自信に満ちた表情が一瞬だけ揺らいだが、すぐに気を取り直した。

「彼は私を愛してるの。あなたがいなくなったら、すぐにでも結婚するわ」

「せいぜい今のうちに楽しんでおくことね、遥」私は一歩近づき、彼女の耳元で囁いた。「誠也はね……不要になったものを、静かに『処分』してきた男よ」

その夜、午後十一時。私は書斎の暗闇の中にいた。竹内が仕掛けた監視の目は、私の期待をはるかに超える成果を上げていた。

誠也の書斎に仕掛けられた隠しカメラが、建設会社の共同経営者と電話する彼の姿を捉えている。

『いいか、大輔。奈々未の口座から少し金を借りただけだ。どうせあいつは死ぬんだから、実質的には俺の金だろうが』

GPSの追跡記録は、彼の裏切りのルーティンを正確に示していた。午後五時までオフィス。その後、まっすぐ遥と落ち合い、ホテルで三時間。そして夜八時には帰宅し、病気の妻を気遣う夫の仮面を被る。

だが、私の血を完全に氷へと変えたのは、寝室のマイクが拾った、深夜の録音だった。私が眠っているはずの時間に、誠也が遥と電話で話している声だ。

『あと半年だ、遥。半年で、何もかもが手に入る。この家も、金も、すべてがな』

『あの子は? 雅樹はどうするのよ?』

『寄宿学校にでもぶち込むさ。あの女を思い出させる存在を、俺が手元で育てると思うか?』

私は、革張りの椅子に深く、深くもたれかかった。彼らの計画の全貌が、おぞましい輪郭を伴って、はっきりと形を結ぶ。彼らはただ私の金を盗もうとしていただけではない。彼らの完璧な未来から、私の息子を、私の命そのものである雅樹を、消し去ろうとしていたのだ。

「……この、人でなし」

私は誰もいない暗闇に向かって、地の底から絞り出すように囁いた。

「正真正銘の、人でなし。あなたが話しているのは、私たちの息子なのよ」

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