第20章

瀬戸北斗は、保坂心月の手首を掴んでいた掌をほどき、乱暴に脇へ突き放した。眉間に深い皺を刻んだまま、言葉もなく考え込む。

認めたくはない。だが胸の奥では、あの夜の相手が保坂心月ではなく――別の女であってほしいと願っている自分がいた。

立花柊の顔が、ふいに脳裏に浮かぶ。

空気の中にまで、淡い鸢尾花の香りが揺らいだ気がした。

瀬戸北斗は、内心でひやりとした。

自分が、そんなことを考えている。

立花柊を思い浮かべるだけで、あの女の仕草も、表情も、笑みのかすかな揺れも、勝手に思い出される。近づきたい。奪い取りたい。腕の中に閉じ込めて、逃げ道ごと塞いでしまいたい――そんな衝動が、じわじわと強...

ログインして続きを読む