第35章 流産

立花柊は保坂心月の腕を力任せに振りほどくと、背を向けて個室のほうへ歩き出した。

いま二人がいるのは階段室。個室まではまだ少し距離がある。

柊は足早だった。これ以上心月に絡まれたくない。そう思って階段室の扉を押し開けた瞬間――腹の底をえぐられるような激痛が走った。同時に、下腹からぬるりとした熱が流れ出す感覚。

「っ……!」

痛みがいきなり跳ね上がり、膝から力が抜ける。視界がさっと暗転し、柊は扉にもたれるようにしてずるずると床へ滑り落ちた。

最初に浮かんだのは、赤ん坊のことだった。

こんな痛み。出血の感覚。

――流産……?

胸の奥が冷たく凍る。焦るのに、体が言うことをきかない。痛...

ログインして続きを読む