第61章 聖母

新谷寒弥が自分の脇をすり抜けていくのを、彼女はただ見ているしかなかった。爪でえぐってしまった手のひらが、ずきりと芯まで痛む。ガーゼに覆われた顔では表情までは読み取れない。けれど、その目に宿る狂気だけは、いっそう生々しく際立っていた。

彼女は通話を切ると立ち上がり、立花柊のいる特別病室へ向かった。半開きの扉越しに、立て続けに5、6枚ほど写真を撮る。ためらいもなく、それをそのまま立花佳織へ送信し、最後に病院の住所まで添えた。

特別病室の中では、立花柊がようやく泣き止み、瀬戸北斗の胸元からそろそろと顔を上げていた。

目元は真っ赤で、まつげにはまだ涙の粒が残っている。鼻先まで淡く赤くなっていて...

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