第2章 佐藤深の診察を求める

患者の傷は非常にひどい、武内夕子は手術台の上で全神経を集中させて6時間も奮闘していた。どの操作も一瞬のミスも許されない。武内夕子は引退前に多くの大手術に参加していたが、手術台を降りたときにはやはり疲労を感じた。幸いにも、手術は無事に成功した。

武内夕子が手術室を出ると、患者の家族が彼女を取り囲んだ。先頭に立っていた老婦人は感激のあまり、震える手で武内夕子の手を握りしめて言った。

「武内先生、夫を救ってくださってありがとうございます。この恩は一生忘れません!」

武内夕子は急いで老婦人の粗い手を握り返し、優しく言った。

「ご安心ください。手術は非常に順調でした。ただ、今後は一連のリハビリ治療が必要です。後ほど医療スタッフが詳しく説明しますので、患者さんが徐々に回復できるようにしましょう」

老婦人は感激して何度も頷いた。

家族の対応を終えた後、武内夕子はオフィスに向かって歩き出した。

途中、院長が若い男性と廊下で話しているのを見かけた。その男性は端正な顔立ちで、深い瞳が印象的だった。精緻な装いが彼の気品を一層引き立てていた。

武内夕子を見ると、若い男性は熱心に近づいてきて、敬意を込めて言った。

「武内先生、今日の手術はまるで完璧な芸術のようでした!」

武内夕子は一目で彼が医療関係者ではないと確信した。彼の独特なオーラは、日常的に接する医療スタッフとは全く異なっていた。

武内夕子は謙虚な微笑みを浮かべ、静かに言った。

「お褒めいただきありがとうございます。これは私の仕事の一部です。全力で守る価値があります」

「こちらは佐藤グループの社長、佐藤深さんです。ビジネス界では有名な方です」

院長が紹介した。

佐藤深?その名前を聞いた瞬間、武内夕子は雷に打たれたような衝撃を受けた。佐藤深は、結婚してから離婚するまで一度も会ったことのない元夫ではないか?こんなに早く再会するとは。

「佐藤さんは、あなたが新安病院に入職したと聞いて、特別に診察を求めて来られました」

院長はそう言いながら、厚いカルテを武内夕子に手渡した。

武内夕子はカルテを受け取り、心の中で思った。

佐藤深、結婚して二年間も姿を見せなかったのは病気のせいか?

カルテをめくると、病気なのは佐藤深本人ではなく、鈴木悦子という若い女性だった。

佐藤深、結婚して二年間も家に帰らなかったのは彼女のためだったのか?

武内夕子は考える暇もなく、全ての注意を鈴木悦子のカルテに集中させた。読み進めるうちに表情がますます険しくなった。

「患者は非常に稀な神経芽細胞腫を患っています。早急に治療しなければ命の危険があります」

院長は武内夕子の表情が険しいのを見て、言わずにはいられなかった。

「彼女は以前にも開頭手術を受けたことがあります」

武内夕子はカルテを素早くめくりながら、少し驚いた様子で言った。

「そうです。しかし、誰も再発するとは思いませんでした。そして……」

佐藤深の言葉は途切れた。

武内夕子は、佐藤深がこの病気を非常に心配していることを知っていた。

「どうやら、今回の再発は非常に深刻です。早急に手術を手配することをお勧めします」

武内夕子は顔を上げ、佐藤深を真っ直ぐに見つめた。

武内夕子は、佐藤深が自分を見つけ出したのは、新安市の医療界でこのような高難度の手術を行えるのは自分しかいないと知っていたからだと理解していた。

武内夕子はカルテを見続けた。

「しかし、現在の検査結果から見ると、手術の難易度は非常に高いです」

「武内先生、今日は悦子の手術をお願いしたくて来ました」

佐藤深は真剣に言った。

武内夕子はカルテを見つめ続け、眉をさらにひそめた。

「当院の設備では、このような高精度の手術には対応できません」

院長は外科医出身であり、患者の状況がどれほど危険かを知っていた。武内夕子が設備の問題を指摘すると、院長の顔には困惑の色が浮かんだ。

「武内先生、あなたが言う困難は私にとっては困難ではありません。あなたが手術を引き受けてくださるなら、必要な機器や設備はすぐに手配し、新安病院に届けさせます。手術の時間を無駄にしません」

鈴木悦子を救うために、佐藤深はどんな代価も惜しまなかった。

院長の感情は一気に高まった。

「武内先生、私はあなたの技術に全幅の信頼を寄せています。あなたが手術を引き受けてくださるなら、私や脳外科部長がいつでも助手として全力でサポートします」

武内夕子にとって、以前海外でこれよりも難しい手術を何度も経験していた。この手術を成功させれば、新安市での知名度を一気に高めることができる。何よりも、これは一つの命であり、医者として見過ごすことはできない。

ただ、佐藤深と鈴木悦子の間に不正な関係があるかもしれないと思うと、武内夕子の心には少しの怒りが湧いてきた。

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