第4章 飾り物かそれとも道具か?

オフィスの前にたどり着いた時、武内夕子は中から聞こえる賑やかな話し声に耳を傾けた。彼女の心には好奇心が湧き、足取りも自然と遅くなった。武内夕子はドアに近づきながら、静かにオフィス内の会話を聞いていた。

「木村院長が自ら保証するなんて、この若いドクター武内は本当にすごいんだな。将来が楽しみだよ」

一人の声が敬意を込めて言った。

「本当にそうだね。医術が優れているだけでなく、こんなに若くて美しいなんて。学校の時に教授から超優秀なドクター武内の話を聞いたことがあるけど、まさかうちの病院で本人に会えるなんて、運が良かったよ」

若い女性の実習生が興奮を隠せず、言葉に喜びが溢れていた。

これらの称賛を聞いて、武内夕子は心の中で少しの安堵を感じた。自分の努力と能力が認められるのは嬉しいことだ。しかし、彼女は医師としての道のりがまだまだ長く、多くの挑戦が待ち受けていることをよく知っていた。

その直後、誰かが不満げな声を上げた。

「どれだけすごいっていうんだ?昔は俺も脳外科のエースだったけど、この病院の設備が古すぎて、今じゃ俺の腕も役に立たないよ」

武内夕子はその酸っぱい言葉を聞いて、眉をひそめた。心の中で思った

(環境を嘆く暇があるなら、自分を高めるか、病院の改善に力を尽くすべきだ)

そう考えながら、武内夕子は手を上げてドアを軽く叩き、そのままオフィスに入った。

皆が武内夕子の入室に気づくと、賑やかだった雰囲気が一瞬で凍りつき、数人が顔を見合わせてから、気まずそうにそれぞれの席に戻った。

若い女性が急いで武内夕子の前に駆け寄り、興奮して言った。

「ドクター武内、先ほど手術を見学させていただき、大変勉強になりました」

武内夕子はその声で、先ほどドアの外で聞いた実習生だと分かった。彼女は微笑みを浮かべ、軽く頷いた。

その女性は真剣な笑顔を浮かべて言った。

「田中笑美と申します。これからもドクター武内のご指導をよろしくお願いします」

そう言って、田中笑美は武内夕子にウィンクした。

武内夕子は、積極的で学ぶ意欲のある後輩を好んでおり、この実習生の熱意を見て、心から自分の知識を伝えたいと思った。

年配の男性医師が鼻で軽く笑い、不屈の声で言った。

「どれだけすごいって言っても、所詮は見た目だけの飾り物だろう」

武内夕子はその言葉を発した人物の名札を見て、脳外科部長だと知った。

武内夕子は心の中で疑問に思った。なぜ医長はこんなにも自分に対して無意味に敵対的なのか?しかし、彼女はこの場で無駄な争いをするつもりはなかった。軽く微笑みを浮かべ、自分のデスクに座ってカルテを整理し始めた。

すぐに退勤時間が来て、武内夕子は新安病院を出ると、佐藤深が少し離れたところに立っているのを見た。

武内夕子は無意識に足を止め、顔の笑みも瞬時に消えた。彼女は眉をひそめ、目に一抹の不快感が浮かんだ。その時、佐藤深も武内夕子に気づき、大股で彼女に近づいてきた。

「武内先生、今晩一緒に夕食をどうですか?」

佐藤深は非常に丁寧に言った。

武内夕子は直接答えず、周囲を見回してから尋ねた。

「こんなに遅くまで、佐藤社長は何をしているんですか?」

佐藤深の声には感情が感じられなかった。

「妹の主治医に食事をおごりたいと思って、武内先生の退勤を待っていたんです。それに、手術に使う機器を持ってきました」

「妹?」

武内夕子は佐藤深が鈴木悦子を「妹」と呼んだことに敏感に反応し、心の中でこの「妹」という呼び方が二人の間の愛称だろうと考えた。

彼女は佐藤深の視線の方向を追い、院長が数人の運搬工を指揮して大きな機器を慎重に運んでいるのを見た。

武内夕子は佐藤深が鈴木悦子の病状にこれほど心を砕いているとは思わなかった。たった半日で手術器具をすべて揃えたのだ。

もし佐藤深が武内夕子の元夫でなければ、彼女は彼の深い愛情に感動しただろう。しかし、その愛情はすべて彼の愛人に向けられていた。結婚して二年の正妻である武内夕子には、彼は一度も会いたがらなかった。

さらに武内夕子が非常に不快に感じたのは、佐藤深が離婚したばかりで、元妻に愛人の手術をさせようとしていることだった。

これは私をただの道具として見ているのか?

武内夕子は心の中で思った。

武内夕子が答えないのを見て、佐藤深は少し不安そうに尋ねた。

「どうですか、武内先生、よろしいでしょうか?」

武内夕子は佐藤深の言葉で思考を引き戻され、恥ずかしそうに髪を耳にかけた。

「『妹さん』の手術を引き受けたのは医師としての責任からです。食事は遠慮させていただきます」

武内夕子は「妹さん」という言葉を意図的に強調した。

佐藤深は明らかに驚き、深い瞳に一瞬の驚きを見せた。ドクター武内に拒絶されるとは思っていなかったようで、一瞬動きを止めた。何しろ、これまで佐藤深を拒絶する人はいなかったのだから。

前のチャプター
次のチャプター