第10章

佐藤結衣視点

藤原株式会社の社長室で、拓也は無理やり書類を処理していた。

しばらくの間、彼は仕事に没頭することで自分を麻痺させ、結衣のことを考えないようにしていた。

突然、電話が鳴った。

「藤原拓也です」彼は機械的に答えた。

「お前の妻は預かった」その下品な声に、拓也は瞬時に酔いが醒め、椅子から飛び上がらんばかりに身を固くした。

「何だと? 何者だ、お前は!」

「一億円。現金で、警察抜きだ」聡と名乗る男が電話の向こうで唸った。「さもなければ、妻の葬式の準備でもしておくんだな」

拓也の血が凍りつき、受話器を落としそうになった。「彼女は無事なのか? 怪我はさせていないだろ...

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