第1章 あなたの体はもうダメですか

「二ヶ月の出張から帰ってきて、たったの一回だけ?体、大丈夫?」

早朝、思う存分絡み合った後の浅見紗雪は、一度死んだかのようにぐったりとしていた。

汗だくで、体はだるく力が入らず、呼吸さえままならない。それでも彼女は男の引き締まった腰に抱きつき、尋ねた。

男はベッドから降りてシャワーを浴びに行こうとしていたところだった。

その言葉を聞き、動きを止めると、彼女の顎を掴む。その声は低く、掠れていた。

「どうした?満足させてやれなかったか?」

「もちろんよ。あなたのせいで舌が肥えちゃったんだから!でも、もし本当にダメなら、早めに病院を予約して治療した方がいいわ。病気を隠して医者にかからないなんてダメよ……」

浅見紗雪が言い終わる前に、男は怒りを含んだキスを落としてきた。

風間朔也はもとより自制心に乏しい男だ。その上こんな挑発を受けたのだから、今回の侵略は、当然ながら激しく、凶暴なものとなった。

「浅見紗雪、今日こそ思い知らせてやる。俺がどれだけ『できる』男か!」

浅見紗雪は懸命に応えた!

目の前の男が、情熱的なのを好むことを知っていたからだ。

彼は自分を愛してはいない。けれど、情事においては、まるで深く愛されているかのような錯覚を与えてくれる!

もっとも、浅見紗雪は気にしていなかった。

風間朔也に嫁いで二年。もっと時間をかけて、彼の心を温めたいと願っていた。

彼との間に子供を授かることを、夢見ていたのだ!

そう思うと、浅見紗雪は両腕を彼の広い肩に強く絡ませた……。

すべてが終わったのは、すでに午後四時を回っていた。

風間朔也は身をもって浅見紗雪に教えたのだ。彼の体に何の問題もなく、むしろ絶好調であると!

彼はシャワーを浴び終えると、いつも通りシャツとスラックスを身につける。

すらりとした長身で、シンプルな衣服が、広い肩と引き締まった腰、そして一対の長い脚を完璧に描き出している。容貌はさらに端正で、その目鼻立ちは、まるで創造主が偏愛して作り上げた得意作のようだ。

切れ長の瞳は、目尻がわずかに跳ね上がり、深く、そして情を含んでいるかのよう。纏う雰囲気も、この上なく高貴だ。

今、彼がゆったりとシャツのボタンを留めていると、けたたましい携帯の着信音が突然鳴り響いた。

風間朔也はそれを聞くと、片手を空けて電話に出る。

電話の向こうの相手が何を言ったのか、彼の表情に驚きが浮かんだ。

数秒後、電話を切ると、男の深い眼差しが、まっすぐに浅見紗雪を射抜く。

浅見紗雪は疲れ果てて昏睡寸前だったが、最後の意識を振り絞って尋ねた。

「どうしたの?誰からの電話?」

風間朔也は淡々とした声で言った。

「母さんからだ。お前は浅見家の偽物の令嬢で、浅見恵吾とは血の繋がりが一切ない、と。本物の令嬢も家に戻った、とも」

浅見紗雪の心臓が、きゅっと締め付けられ、一瞬で意識が覚醒した。

一ヶ月前、彼女の父親が体調不良で病院の健康診断を受け、その結果、彼女と血液型が一致しないことが発覚したのだ。

当時、浅見家はすぐさまネット上で親族探しを行い、半月前、本物の実の娘——浅見香奈を迎え入れた!

その夜、浅見家は盛大な歓迎パーティーを開いたが、浅見香奈が誤ってプールに落ち、その場で彼女が突き落としたのだと指差された。

浅見家は激怒し、数え切れない人々が彼女を『殺人未遂』の犯人だと罵った。

そして、偽物の令嬢である彼女は、当然のごとく家を追い出されたのだ!

風間朔也は二ヶ月間出張していたため、この件については知らなかった。

浅見紗雪は機会を見つけて話すつもりだったが、まさか義母の黒崎奈和が先に口火を切るとは思ってもみなかった。

浅見紗雪は頷き、無意識にシーツを握りしめながら言った。

「そういうことなの。お義母様は何か言ってた?」

風間朔也の口調は極めて平坦で、まるで他人事のように告げた。

「母さんの考えでは、この婚姻はもともと風間家と浅見家が結んだものだ。本物の令嬢が戻ってきた以上、この婚約も、本来の持ち主の元へ返すべきだ、と」

その言葉が意味するのは、婚姻を浅見香奈に返せ、ということだ!

浅見紗雪の顔色が悪くなる。

偽物の令嬢という身の上は、誰もが予想だにしなかったことだ!

彼女と風間朔也はすでに結婚して二年、もはや変えようのない事実。

返せと言われて返せるものなのだろうか?

だが、義母である黒崎奈和の態度よりも、浅見紗雪は風間朔也の態度が気になった。

「あなたは?どう思うの?」

浅見紗雪は指に力を込め、期待を込めて目の前の男を見つめた。

結婚してからの二年間、自分は完璧な専業主婦だったと自負している。

彼の食事や身の回りのことは、ほとんど彼女が自ら行ってきた!

彼への世話も、至れり尽くせりだった。

風間朔也はまだ自分を愛してはいないにしても、少しは好意を抱いてくれているはずだ、と彼女は思っていた。

しかし、男の次の答えは、まるで頭から浴びせられた氷水のように、彼女を骨の髄まで凍えさせた。

「どうも思わん。たかが婚約だ。相手が誰であろうと、俺にとっては大した影響はない……今夜の飛行機で隣の市へ数日出張だ。もう行く」

そう言うと、浅見紗雪の反応を待たずに、スーツのジャケットを手に部屋を出て行った。

バタン——

ドアが静かに閉められた瞬間、浅見紗雪は窒息するような感覚に襲われた。

同時に、心臓を鋭く抉られたように、息もできないほど痛んだ。

彼女の頭の中には、男の最後の言葉が響き渡っていた。

誰でも……いいの?

そうよね。

風間朔也にとって結婚とは、あってもなくてもいい付属品に過ぎない。

すべて、彼女の独りよがりに過ぎなかったのだ!

この瞬間になってようやく、浅見紗雪はあの男がいかに冷酷無情かを知った。

彼の心は、おそらく彼女が一生をかけても溶かすことのできない氷なのだろう!

風間朔也が去って一時間後、義母の黒崎奈和が離婚協議書を手に訪ねてきた。

彼女は書類を投げつけ、罵倒した。

「結婚して二年、子供一人産めないと思ったら、偽物の令嬢だったとはね!あんたみたいな女に富貴の相はないって前から言ってたけど、本当にその通りだったわ!今じゃ素性も知れず、おまけに殺人未遂……そんな蛇蝎のような女が、どうして朔也に相応しいと思うの?さっさとサインして、風間家から出ていきなさい!」

浅見紗雪はただでさえ落ち込んでいたところに、離婚協議書を顔に叩きつけられ、言葉を失った。

しばらくして、ようやく声を取り戻し、尋ねる。

「これは彼の意思?それともお義母様の意思?」

黒崎奈和は居丈高に答えた。

「私の意思であり、彼の意思よ!あんたみたいな人間が、どうして風間家の嫁に相応しいの?あなたたちが離婚したら、来月には朔也が香奈さんを嫁に迎えるわ。彼女こそが、私たち風間家の嫁よ!」

浅見紗雪の心臓が疼いた。

彼はそんなに急いでいたの?

まだ飛行機にも乗っていないというのに、離婚協議書を送りつけてくるなんて。

彼女は込み上げる涙をこらえ、書類を開いた。

協議書に『慰謝料なしで離婚』と書かれているのを目にし、さらに目が眩む思いがした。

このご時世、家政婦にだって給料は出る。

風間家で二年もの間、風間奥様を務めてきたというのに、一銭も得られない結末になるとは!

浅見紗雪は滑稽に思った。

黒崎奈和は浅見紗雪が条件を出すのを恐れたのか、皮肉を口にした。

「まだ何か不満でもあるの?身分が間違っていなければ、二年間も何不自由ない若奥様でいられたと思う?教えてあげるわ、感謝しなさいよ。何か得ようとなんて考えないことね!さっさとサインしなさい。そうすれば、私が人に手を出させる手間も省けるわ……」

浅見紗雪は喉を何かに塞がれたようで、ついに何も言い返さず、ペンを取って書類にサインした。

これで黒崎奈和も満足するだろう、と彼女は思った。

しかし、相手はまだ終わらず、さらに追い打ちをかけるように言った。

「そうだわ、朔也との結婚指輪、今すぐ返しなさい!あれはブルーダイヤなのよ。有名なデザイナーに特注した、何千万もする代物なの。あんたには不相応よ!揃いのネックレスも、全部返してもらうから!」

浅見紗雪は冷たい顔で答えた。

「金庫の中です。一度も着けていません」

結婚式の日以外、普段は触れてもいなかった。

黒崎奈和はとことん意地悪だった。

「物分かりが良くて結構!どのみち、私たち風間家のものは、一つだって持ち出させないから!」

浅見紗雪はそれを聞いて、吐き気を催した。

「ご心配なく。私のものではないものは、一つも持って行きません」

人も、物も、もとより一度も自分のものになったことなどなかったのだ。

黒崎奈和はついに満足し、すぐに人に浅見紗雪の荷物をまとめさせると、彼女を風間家から追い出した。

……

一週間後、T市の高速道路。

豪華なベントレーの車列が、K市方面へと疾走していた。

車内では、高貴な雰囲気を纏った若い男が、電話の向こうの相手に告げている。

「妹の居場所が分かった。今、妹を迎えに向かっているところだ。お前たちは来なくていい!」

「冗談言うなよ?妹は二十年も行方不明だったんだ。やっと居場所が分かったんだから、俺が行くに決まってる!もうヘリを十数機手配した。俺たちの宝物の妹は、もちろん最高級の待遇で家に迎えるべきだ!」

「紗雪ちゃんは俺たち榊原家唯一の女の子だ。家族全員が待ち望んでたんだぞ。十数機じゃ足りるかよ?もっと増やして、陣形を組んでこそ誠意ってもんだ!」

三人が口論していると、重々しい中年の声が響いた。

「どいつもこいつも黙らんか!紗雪ちゃんはわしの可愛い娘だ。お前らクソガキどもの出る幕じゃない!誰も行くな!わしとお母様が、自ら迎えに行く!!!」

「知るかよ。早い者勝ちだ!この件に関しては、親父だろうが容赦しねえ……」

「……」

……

六年の月日が流れ、K市病院。

浅見紗雪が六時間にも及ぶ手術を終えて出てくると、遠くT市にいる愛娘——鈴からのメッセージが殺到していた。

「ママ、今日、何人もの人が求婚しに来たよ。『僕を新しいパパにしてくれ』だって!おじいちゃん、怒って犬を放って追い出しちゃった。おじさんたちも『どの面下げて来たんだ』って!すっごく面白かったよ!」

「あのおじさんたち、本当に身の程知らずだよね。私のママは世界で一番素敵で、一番綺麗なママなんだから、もちろん一番カッコいい人じゃないとダメなのに」

「ママ、安心して。そういう悪い虫は、私が全部バッサリ断ってあげるから。ママの邪魔はさせないよ……」

浅見紗雪はそれを見て、思わず吹き出してしまった。家の中がどれほどてんやわんやになっているか、目に浮かぶようだ!

彼女は笑いながら返信する。

「それじゃあ、よろしくね、鈴ちゃん!」

そして、携帯をしまい、休憩室に戻ろうとした。

ところが、ナースステーションを通りかかった時、ふと話し声が聞こえてきた。

「聞いた?あの子、パパの医者を探しに来たんだって。誰か治せる人がいたら、その後妻になれるって……しかも、超一流の名家の坊っちゃんなのよ!」

「えっ?それなら腕が一番いい人を探さないと。麻里姉さんなんてピッタリじゃない?それに若くて美人だし!」

「……」

浅見紗雪はもともとゴシップに興味はなかった。

しかし、ついさっき娘の新しい父親になろうとする男が現れたばかりだ。

その直後に、今度は後妻を探しているという話が聞こえてくるなんて!

好奇心から、彼女は足を止めてちらりと見てみた!

すぐに、人だかりの中心で、囲まれている男の子が見えた。

その小さな子は、四、五歳といったところか。顔立ちは非常に精緻で、ぷにぷにとした幼い頬は、触れれば水が滴りそうだ。唇は赤く歯は白く、とても愛らしくて人懐っこい。

今、彼は椅子に座って短い足をぶらぶらさせながら、黒い瞳で周りの人々を見回していた。

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