第508章 なんてお利口なの

 音がそれを見て、声にたちまち悔しさが滲んだ。

「智也さん、車に救急箱はありませんか? 確かいつも車に積んでいた記憶があるのですが、先に消毒をしてもらえませんか? 傷口に砂が入ってしまったみたいで……」

 雫は再び隣の音に目をやり、内心で舌を巻いた。

 今の音は、目元をわずかに赤らめ、瞳には涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうだ。

 唇は微かに震え、涙が溢れないよう必死に堪えている。その健気で憐れな様子は、実に庇護欲をそそるものだった。

 同じ女である彼女でさえ、思わず少し同情してしまいそうになる。

 しかし、次の瞬間、雫は再び唇をきゅっと結び、自分の甘さを唾棄した。やはり彼女の手段...

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