第429章

夜明け前、海の上に突風が吹き荒れた。

小舟は思うように進まず、何度も波に叩きつけられて転覆しそうになる。

船頭は険しい顔のまま、巌谷研一に向かって手を動かした。

藤堂光瑠はそこで初めて、船頭が口のきけない男だと知る。手話で伝えているのは、風がますます強くなっていること、そう遠くないうちに土砂降りになるだろうこと、このまま小舟で進めば危険だ――という内容だった。

巌谷研一は最初から天候を読んでいたかのように、表情をほとんど変えない。

彼は腕時計を一瞥すると、船頭に短く言った。

「予定どおりに動け」

船頭はうなずき、黙々と櫂を動かし続ける。

巌谷研一は舟の反対側へ移動し、潜水用の...

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