第176話:バング

彼は書斎へと姿を消し、広い玄関ホールに僕一人を残していった。

僕は十二歳で、高熱を出してベッドに寝込んでいた。キャサリンは旅行中だった。使用人たちはマーカスを呼ぼうと言ったが、彼はただ医者を寄越しただけだった。

代わりに看病してくれたのは使用人たちだった。僕は夢を見ていた。マーカスが部屋に来て、熱を測り、「もう大丈夫だ」と言ってくれる夢を。だが朝が来ても、僕はやはり一人だった。

その記憶が、ガラスの破片のように僕の心を切り裂く。赤の他人がわが子を無条件に愛する姿を目の当たりにして、僕は自分が何を奪われてきたのか、その重みを痛感していた。

父親とは、こうあるべきものなのだ。これこそが、愛...

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