第54章:私たちの王は舌の使い方を知っています

痕跡はバーから離れ、メイソン通りを下って住宅街へと続いていた。俺はその後を追った。

進むにつれ、彼女の香りが強くなる。間違いなく、彼女はこちらへ来たはずだ。

だが、その香りが変わった。

恐怖だ。鋭く、鼻をつくような刺激臭。甘い香りを酸のように切り裂いていく。

何かが彼女を怯えさせたのだ。

俺は足を速め、駆け出した。

『急げ!』ストームが命じる。『彼女には俺たちが必要だ!』

「サビ! どこだ!」俺は叫んだ。

その時、それが見えた。

路地の奥から人影が飛び出してきたのだ。男だ。素早い動きで逃げていく。

俺は路地へと走った。

彼女は石畳の上に座り込み、背中を煉瓦の壁に預けていた...

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