第55話君を失うわけにはいかない

私はさっと顔を背け、彼の射抜くような視線を避けた。「何でもないわ。ただ……治療を終わらせて」

「何でもない、だと?」面白がるようなその口調に、頬がさらに熱くなる。「お前の匂いはそう言っていないぞ」

(忌々しい人狼の感覚め)

「終わったら唾液をちゃんと拭き取ってね」私は硬い声で言った。「その……証拠を残したまま歩き回りたくないから」

肌越しに彼が笑ったのが分かった。喉が動く気配がして、彼は再び作業に戻った。

彼が終わる頃には、深かった傷は薄いピンク色の線になっていた。私は驚いて自分の腕を見つめた。

「どうしてこんなことが可能なの?」

「ライカン・キングの治癒力は、通常のアルファより...

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