第79章 噂

名刺に記されていた名前は冴島心菜。いまは一族企業のビジネス顧問を務めているらしい。

男から冴島心菜の肩書きを聞いた瞬間、村野華香の胸は高鳴った。

前の件――あのとき冴島零は、父に「警告」をしただけだった。だがそれでも噂は回り、父の競合にまで伝わってしまった。相手はそこを突いてきて、父の会社は今も押し込まれ続けている。最近の父は、その火消しに追われて頭を抱えていた。

冴島心菜が動いてくれるなら、状況はひっくり返るかもしれない。

「俺は伝言役だ。言うべきことは言った。あとは冴島心菜さんに直接連絡してくれ」

男はそう言い残すと、手術室を出ていった。あの猫に視線すら向けないまま。

村野華...

ログインして続きを読む