第80章 虎

体格のいい虎が一頭、ぺたりと地面に伏せていた。すぐ脇にはスタッフが二人。手にはジャーキーが握られているのに、虎はちらりとも見ない。気だるそうに前脚を舐めているだけだ。

荻原和夏は口元をひくつかせ、思わず一歩引いた。大型肉食獣の圧は、やはり目に刺さる。

野口友樹が軽く笑い、虎を指さす。

「見てください、この虎。小さい頃から人に育てられてて、もう野性が抜けてるんです。それに、ほら。そばのスタッフも何の防護もしてない。噛まれる心配なんてしてないでしょう? 安全ですよ」

何度そう言われても、荻原和夏の胸の奥はざわついたままだ。対照的に、浅野海平は顎に手を当て、虎をじっと観察している。

「様...

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