第126章

 「はい」

 アントニオは即座に書き留めた。

 言い終えるや否や、ルシアンの足がふと止まった。

 彼はわずかに横顔を見せ、数秒の沈黙を挟んでから、低い声で付け足した。

 「医者にもう一度診させろ。彼女が……過去を思い返したり、余計なことを考えたりせずに済む薬がないかとな。今のままでいさせてやりたい、それだけでいい」

 今度ばかりは、アントニオも完全に呆然とした。

 弾かれたように顔を上げ、驚愕の面持ちでルシアンの背中を見つめる。

 ルシアンさんの言葉の意味は……奥様が記憶を混濁させ、彼に依存している今の状態を受け入れただけでなく、このままでいることを望んでいるということか。

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