第129章

 ルシアンは階段でわずかに足を止め、二秒ほどの沈黙ののち、身を翻して引き返した。

 ただ淡々と、一言だけを残して。

「時間を見つけて、彼女がテラスをどう改装したいか聞いておけ」

 ヴィトーリ・グループ本社ビルのエントランス。黒のマイバッハが静かに滑り込み、停車した。

 ルシアンがドアを押し開け、長い脚を一歩踏み出したその瞬間――横から華奢な人影が勢いよく飛び出し、彼の行く手を遮った。

「ドン! やっとお会いできました!」

 ヴェロニカだった。

 彼女はひどくやつれていた。

 明らかに念入りに着飾ってはいるものの、今はとめどなく涙を流しており、丹念に引かれたアイラインもわずかに...

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