第143章

 だが、ルシアンの耳には何も届いていなかった。

 深夜の閑散とした通りを疾走した車は、やがてその波止場に滑り込むように停車した。

 ルシアンがこの波止場を訪れるのは、五年ぶりのことだった。

 車のドアを開け放つと、潮の匂いを孕んだ冷え冷えとした夜風が吹きつけ、ルシアンの身体に残っていた微かな酒気を完全に奪い去った。

 顔を上げ、見慣れた景色を見つめる。あの日の記憶が、今も鮮明に蘇る。知らせを受け、手下たちを引き連れてこの波止場に乗り込んだ時の光景が。

 あの時、ここは銃弾が飛び交う修羅場だった。四方から響く銃声、泣き叫ぶ声、そして蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う人々の足音。

 再び...

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