第4章

 彼女は目を閉じ、すべてを終わらせる銃声が響くのを待っていた。

 だが、ルシアンはふと冷笑を漏らし、ゆっくりと銃を下ろした。身を屈め、セレステの顎を指で挟み込むと、無理やり目を開かせて自分を見据えさせた。

「死にたいだと? 死ねば罪を雪げると思っているのか? セレステ、いくらなんでも考えが甘すぎる」

 セレステは、ただ茫然と彼を見つめ返す。

「お前に死など、生ぬるい」

 ルシアンは手を離すと、ポケットからハンカチを取り出し、彼女に触れた指先を拭った。まるで、ひどく汚らわしいものにでも触れてしまったかのように。

「生き続けるんだ。来る日も来る日も、苦痛と懺悔の中で生き恥を晒せ。それこそが、お前への最大の罰だ」

 彼はハンカチを床に投げ捨て、背を向けてヴェロニカの腰を抱き寄せた。

「行くぞ」

 ヴェロニカはルシアンの腕の中で振り返り、セレステに向けて勝利の笑みを投げかけた。

 セレステは空虚な瞳で、固く閉ざされた扉を見つめていた。

 彼は、そのまま去ってしまった。

 しかし、彼女の心の底には、ぞっとするような寒気が込み上げていた。

 彼が立ち去ったことは、事態の終息を意味しない。新たな罰が、これから始まろうとしているのだ。

 その夜、セレステが家に戻ると、アパートには見知らぬメイドたちが数人雇い入れられていた。

 彼女たちは慌ただしく掃除や飾り付けに追われ、リビングには高価な花々とシャンパンが並べられている。

「奥様、お帰りなさいませ」

 年配のメイドが進み出て言った。

「ルシアン様より、今夜はご自宅でパーティーを催すゆえ、準備を手伝うようにと仰せつかっております」

 セレステは呆然とした。

「パーティー? 何も聞いていないけれど……」

「ルシアン様は、わざわざお知らせするには及ばないと」

 メイドは彼女の言葉を遮り、一枚のリストを差し出した。

「こちらが今夜のメニューと注意事項でございます。ご確認をお願いいたします。それから、奥様のドレスはすでに寝室にお運びしてございます。ルシアン様が自らお選びになられた品です」

 セレステがリストを受け取ると、そこには細かな要求がびっしりと書き込まれていた。忙しく立ち働くメイドたちを一瞥し、彼女はふと悟った。

 ルシアンは、わざとやっているのだ。

 彼自身の家で、彼女を女主人という立場に置きながら、召使いの真似事をさせようというのだ。

 それは紛れもない辱めであり、同時に一つの宣言でもあった。この家において、彼女は何者でもないのだと。

 セレステは黙って階段を上がり、寝室へと向かった。ベッドの上には、確かにドレスの箱が置かれていた。箱を開けると、中には深緑色のロングドレスが入っていた。極端なまでに質素なデザインで、パーティーの華やかな雰囲気には到底そぐわない。

 いや、これをドレスと呼ぶことすらためらわれる。ただの地味なワンピースにしか見えない。

 セレステは服を着替え、鏡の前に立った。

 サイズは明らかに大きすぎ、痩せこけた彼女の身体にだらしなく引っかかっている。その色合いも相まって、蒼白な顔色がさらに際立っていた。

 彼女は自嘲気味に笑い、化粧を整え始めた。

 鏡の中の女は眼窩がくぼみ、頬骨が浮き出ている。かつて『ニューヨークの薔薇』とまで謳われた美貌は、とうの昔に枯れ果てていた。まだ二十七歳だというのに、三十七歳のように見える。

 夜七時、客たちが次々と到着し始めた。

 セレステはキッチンの入り口に立ち、リビングで談笑するスーツ姿の男たちや、宝石で着飾った女たちを眺めていた。

 ルシアンは人だかりの中心に立っていた。その隣にはヴェロニカが寄り添っている。完璧なメイクを施し、眩しいほどの笑顔を浮かべた彼女は、親しげにルシアンの腕に絡みついていた。

「ルシアン、あちらは?」

 ずっと彼らの方を見つめているセレステに気づいた一人の客が、わざとらしく尋ねた。

 ルシアンはセレステを一瞥し、口元に皮肉な笑みを浮かべた。

「我が家のメイド、セレステだ」

 客たちは納得したように頷き、次々と軽蔑の眼差しを向けた。

「ああ、彼女が。自分の妹を死に追いやったっていう」

「卑劣な手を使って結婚を迫ったそうじゃないか。本当に厚顔無恥だ」

「コスタ家から、あんな娘が出るなんて……」

 ひそひそ話が、針のようにセレステの耳に突き刺さる。

 彼女は俯き、黙ってキッチンへと戻り、料理の準備状況を確認し始めた。

「セレステ!」

 突如、執事の声が響いた。

「シャンパンが足りない。地下室からもう二箱持ってきなさい!」

 セレステは短い返事をし、地下室へと向かった。

 重いシャンパンの箱を二つ抱え、どうにかリビングに戻ってきた頃には、パーティーはすでに最高潮に達していた。

 バンドが軽快なジャズを奏で、客たちは男女ペアになってダンスホールで踊っている。

 ルシアンとヴェロニカもその中にいた。

 ヴェロニカはルシアンの身体にぴったりと張り付き、頬を赤らめ、その瞳には愛慕の色を隠そうともしない。ルシアンは片手で彼女の腰を抱き、もう一方の手でグラスを持ちながら、時折彼女の耳元で何かを囁き、そのたびにヴェロニカは甘い笑い声を上げていた。

 部屋の暗がりに立ち、その光景を見つめていたセレステの胸に、ふと鋭い痛みが走った。

 何年も前、エミリもあのようにルシアンの腕の中に寄り添い、太陽のように輝く笑顔を見せていた。あの頃、エミリを見つめるルシアンの眼差しは、氷をも溶かすほどに優しかった。

 だが今、彼はあの頃と同じように別の女を抱いている。エミリの真似事をする女を。

「いつまでぼんやりしているの?」

 一人の女性客が不満げに声を荒らげた。

「グラスが空になっているのが見えないの? お酒を注ぎなさい!」

 セレステは我に返り、慌てて客たちのグラスに酒を注いで回った。

 だが、先ほどの光景のせいで、彼女の指先はひどく震えていた。ほんの少し気を抜いた瞬間、酒がこぼれ、隣にいた夫人のドレスの裾に跳ねてしまった。

「ああ! 私のドレスが!」

 夫人は金切り声を上げた。

「パリで仕立てたばかりの新作なのに!」

 その場にいた全員の視線が一斉に集まった。

 ルシアンはヴェロニカから離れ、大股で歩み寄ってきた。夫人のドレスについたシミを一瞥し、凍りつくような視線をセレステに向けた。

「申し訳ありません、わざとでは……」

 セレステは慌てて謝罪した。

 ルシアンは彼女を無視し、夫人に向かって口を開いた。

「エリザベス夫人、大変申し訳ありません。このドレスは、十倍の値段で弁償させていただきます」

「弁償? お金の問題だと思っているの?」

 夫人は怒り心頭だった。

「今夜のパーティーのために、わざわざ仕立てたのよ! それが台無しじゃない!」

「では、どうすればよろしいでしょうか?」

 ルシアンは淡々と尋ねた。

 夫人は冷笑を漏らし、セレステを指差した。

「彼女を跪かせて、私のドレスを綺麗に拭かせなさい!」

 リビングは水を打ったように静まり返り、誰もが驚きや好奇心、あるいは他人の不幸を楽しむような目で、その光景を見つめていた。

 セレステは血の気を失った顔で、信じられないというように夫人を、そしてルシアンを見た。

 ルシアンが振り返り、彼女と視線を合わせた。だがその瞳は、一切の温度を感じさせないほどに冷え切っていた。

 彼はゆっくりと口を開く。決して大きな声ではなかったが、その場にいる全員にはっきりと聞こえる声で。

「聞こえなかったのか? 跪いて、エリザベス夫人のドレスを拭け」

 彼は同意したのだ。

 何の躊躇いもなく、あっさりと。

 セレステは思った。そもそも、彼に何の期待も抱くべきではなかったのだと。この数年間、数え切れないほどの辱めと、手を変え品を変えた折檻を受けてきたではないか。

 だが今回は、これまで密室で行われていた罰を、人前に引きずり出した。大勢の目の前で、彼女の尊厳を完全に打ち砕こうというのだ。

「ルシアン……」

 彼女はかすれた声で哀願した。

「跪け」

 ルシアンは、全く感情を交えずに同じ言葉を繰り返した。

 セレステの身体がふらつき、彼女は絶望とともに目を閉じた。

 もう、逃げ場はない。

 突き刺さるような無数の視線を浴びながら、彼女はただ、床に膝をつくしかなかった。

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