第62章

 ルシアンがヴェロニカを連れて控室に戻ると、室内はもぬけの殻だった。

 セレステはいつの間にか姿を消していた。

 ルシアンは入り口でほんのわずかに足を止め、眉をひそめると、控室の外に控えていたボーイに視線を向けた。

「ヴィトリ様」

 ボーイが慌てて歩み寄る。

「およそ二十分ほど前、ロレイン様と奥様が相次いで退出されました。ロレイン様は宴会場へ戻られたようですが、奥様は……行き先を告げず、お一人で立ち去られました」

 ルシアンの眉間により深い皺が刻まれ、得体の知れない苛立ちがふつふつと湧き上がる。

 足を捻挫したばかりで、歩きにくいドレスにハイヒール姿。そのうえ口も利けないという...

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