第72章

男が身をかがめ、彼女を捕まえようと手を伸ばしたその瞬間。セレステは残るすべての力を振り絞り、砕けたレンガの欠片を握りしめると、男に向かって渾身の力で叩きつけた。

 ゴツッ!

 レンガが男の体のどこに命中したのかはわからない。痛みにくぐもった呻き声を上げ、男の動きがぴたりと止まる。狭い空間に、微かな血の匂いが急速に広がっていった。

「このクズ!」

 怒りと屈辱に顔を歪めた男が低く吠える。一歩踏み込み、大きく振りかぶった腕が、セレステの頬を容赦なく張り飛ばした。

 起き上がる間もなく、セレステは再び冷たい床へと叩きつけられてしまう。

 耳の奥で激しい耳鳴りが響き、視界には火花が散る。...

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