第87章

 彼は無意識に足を振り上げ、さらに蹴りつけようとした。

「ルシアンさん! これ以上は駄目です!」

 傍らで硬直していたアントニオがようやく我に返り、弾かれたように飛び出すと、ルシアンが再び振り上げた脚に死に物狂いでしがみついた。

「これ以上は奥様が死んでしまいます! どうかお静まりを!」

「死ぬ、だと?」

 ルシアンの動きがぴたりと止まった。何かを思い当たったかのように、蹴り出そうとしていた足をゆっくりと下ろす。

 彼は手を伸ばし、乱れ一つなかった自らの髪を苛立たしげに掻き毟った。

「そうだ……まだ死なせるわけにはいかない……清算すべき借りが残っている……そうだ、まだ終わっちゃ...

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