第106章

ただ、長いこと座り込んだまま――スマホを胸に当て、そっと目を閉じた。

それからというもの、葉山陸斗の「妻追い」は、あからさまになった。

毎朝6時半。菊地杏奈がマンションのドアを開けてジョギングに出ようとすると、廊下の足元には必ず、まだ湯気の立つ朝食が置かれている。横にはコンビニの付箋が一枚。葉山陸斗の筆跡で、こう書いてあった。

「今朝通りかかったついで。差し入れ」

手に取ってみれば、杏奈のいちばん好きな老舗の肉まん。朝はいつも行列で、二十分は待つ店だ。

「ついで……?」

杏奈は付箋に眉を上げつつ、朝食を家に持ち込み、結局ぺろりと食べた。悔しいくらい、ちゃんと美味しい。

午前中、...

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