第29章

菊地杏奈と大野友菜は視線を交わし、互いの瞳の奥に、同じ嘲りの笑みを見つけた。

恋は人を盲目にする。ビジネス界で名を馳せる葉山陸斗でさえ、その呪いからは逃れられないらしい。

「……どうして、そこまで?」

杏奈は静かに葉山陸斗を見た。まるで、初めて会う他人を見るみたいに。

陸斗の胸が、ひゅっと鳴った。理由のない苛立ちが腹の底からせり上がる。

――以前の杏奈は、こんな目で俺を見なかった。

その事実が、妙に癪だった。

「美波は葉山グループのデザイン部長だ。それに……おまえの妹でもある。あいつに、こんな“汚点”は残せない」

陸斗はネクタイを緩め、長く考えてきた言い分を吐き出した。

「...

ログインして続きを読む