第32章

菊地美波は、彼の変化に気づいて内心うろたえた。

会社のトラブルが葉山陸斗の胸を重くしているのか、それとも菊地杏奈が騒ぎを起こした件が、なおさら腹に据えかねているのか。美波には判断がつかない。

「陸斗、疲れてるでしょ? コーヒー淹れてきたの」

菊地美波はオフィスのドアをそっと押し開けた。滴るように甘い声が、呼び鈴の音に混じる。

ぼんやりしていた葉山陸斗は声に反応して椅子を回し、眉間を揉みながら金縁の眼鏡を外して机に放った。

「どうして来た。デザイナー部の仕事は忙しくないのか」

菊地美波は唇を結ぶ。

「忙しくないわけないよ? 今日は新しいデザイン画も何枚か描いたし、合いそうな布も選...

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