第52章

菊地杏奈は我に返った途端、さっと血の気が引き、顔が真っ白になった。

田辺翔太は、彼女がここまで大きく動揺するとは思っていなかったらしく、慌てて何度も頭を下げる。

「先輩……先輩のせいじゃありません」

菊地杏奈は両手でマグカップを包み込み、器の熱を確かめるように息を吐いた。肩が、ゆっくりと落ちていく。

「最初は私が、意地になってただけ。真心を出せば真心で返してくれるって、信じてたの。でもこの三年、冷たくされ続けて分かった。真心って、ちゃんと真心で返してくれる人にだけ渡すべきなんだよ。そうじゃなきゃ……相手にとっては、ただの重荷になる」

葉山陸斗と暮らしていた別荘を出た時点で、菊地杏奈...

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