第60章

菊地杏奈の箸がぴたりと止まり、さっきまで止まらず愚痴っていた大野友菜も、思わず口を閉じた。

「はじめまして。菊地杏奈の妹、菊地美波です」

菊地美波はすっと背筋を伸ばし、横並びに座る男三人へ堂々と挨拶する。箸を折れそうなほど握りしめている大野友菜の存在など、最初から視界に入っていないかのように。

そっぽを向いていた葉山陸斗は腕を引かれてよろけ、その拍子に田辺翔太の顔を見て目を丸くした。

「先輩……なんでここに?」

「後輩たちを連れて、週末の気分転換ですよ。葉山社長も同じでしょう」

田辺翔太は黒縁メガネを指で押し上げる。表情は研究室にいるときと変わらない、無駄のない真面目さだった。

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