第63章

菊地杏奈が知る菊地美波は、まだ幼い頃の姿のままだった。表では取り繕い、裏では別の顔を見せるというやり方を、彼女はまるで呼吸するように身につけていた。

心臓に問題を抱えた“あの友人”と鉢合わせでもしようものなら、どんな修羅場になるか分かったものじゃない。

だから杏奈は、できることなら二人を早く会わせたくなかった。あの患者を治療する時間だけは、どうしても欲しい。

葉山陸斗は、田辺翔太に向かって自分の知っていることを真面目に話しながら、視界の端でスマホをいじっている菊地杏奈をちらちらと追ってしまう。胸の奥が落ち着かない。

――俺たち、あれはホテルで会っただけじゃなかったのか?

朝食を一緒...

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