第65章

菊地杏奈は舌先を上顎の裏で往復させ、長い沈黙のあと、いかにも不本意そうに口角を下げた。

「菊地美波、海外になんて大していなかったの。実際……葉山陸斗とのことも、本人の口から聞かされたわ」

「だろうね」

大野友菜は、拍子抜けするほど平然としていた。

この三年、菊地杏奈は葉山陸斗に文字どおり身も心も尽くしてきた。夫婦で顔を合わせる機会が少なくても、仕事が忙しいからだと信じて疑わなかった。少しでも彼に会える時間を増やしたくて、わざわざ職まで変え、葉山グループに入ったほどだ。

そんな状況で、葉山陸斗の裏切りを自分から疑えるはずがない。

きっと、誰かがわざわざ目の前で化けの皮を剥いでみせた...

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