第66章

菊地杏奈――その四文字が返ってきた瞬間、まるで煮えた油に水を二滴落としたみたいに、ネットはぱちぱちと爆ぜた。トレンドは一気に炎上のど真ん中へ押し上げられる。

今回の取材で、先日から囁かれていた婚姻中の不倫疑惑を少しでも薄められるはずだった。

なのに、そこで突きつけられたのは、自分ですら知らなかった話。

葉山陸斗はソファにもたれ、陰った顔のままスマホに流れ続ける通知を睨んでいた。眉間の皺は深くなる一方で、ついに堪えきれず、手の中の端末を思いきり放り投げる。

一か月少し前まで、菊地杏奈はこの家にいた。

おとなしく葉山夫人として振る舞い、身の回りのことをきっちり整え、彼の生活を支えていた...

ログインして続きを読む