第72章

菊地杏奈はオレンジジュースを口にしながら、賑やかにじゃれ合う面々を眺めていた。目元にも口元にも、やわらかな笑みが浮かんでいる。

 葉山陸斗のことを見切り、葉山家を出てからというもの、日々はまるで三年前に戻ったみたいだった。

 特別に裕福というわけじゃない。毎日が飛びきり楽しいわけでもない。けれど少なくとも、好きなように生きられる。以前みたいに、外出のたび葉山陸斗がちゃんと食べているか、眠れているか、そのせいで回復に響かないか――そんなことばかり気に病まなくていい。

 自分のことだけに心を使える感覚は、思っていた以上に心地よかった。

「車を買ったら、もうそれを言い訳に休めないわよ?」

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