第83章

受話器越しに、菊地杏奈は葉山陸斗が息を呑む音をはっきり聞き取った。ふっと、喉の奥で笑いが漏れる。

陸斗が、ああいう裏表のある人間を「真剣に」信じていることを笑ったわけじゃない。

さっきまでの自分が、一瞬でも罪悪感を抱いたことを――その滑稽さを笑ったのだ。

この三年間、菊地杏奈の感情は、葉山陸斗の一挙手一投足に振り回され続けた。

そして、ほんの少し前。頭の片隅に、ひどく小さな疑いの声が浮かんだ。

私の何が悪かった? どうして陸斗は不機嫌になるの?

けれど、我に返ったその瞬間。杏奈ははっきり理解した。

今、葉山陸斗が感じている不快感は、全部――自業自得だ。

ぷつり。

通話が切れ...

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